アメリカン・プロレス界の大御所ともいえる存在のリックフレアー
80年代の前半に日本へたびたび来日していた狂乱の貴公子ことリックフレアーは、当時の日本のプロレスファンが抱いていたプロレス最強論といった価値観からはかけ離れたレスラーでした。
そのころ中学生だった筆者は、あまり強そうに見えなくて、ズルくて薄氷の防衛ばかりを繰り返すフレアーのことが正直あまり好きではありませんでした。
しかし、実はこれこそがフレアーの計算だったということは後になって知りました。
リックフレアーというレスラーは、観客が自分に何を望んでいるかを、そしてビジネスとは何かを熟知していました。
NWA世界王者は全米各地、更には日本を転戦し、そのテリトリーのチャンピオンと防衛戦を行わなければならないという使命がありました。
敵地に乗り込んだNWA王者を、地元の観客はどのような目で見るでしょうか?
きっと、地元のチャンピオンが世界王者を相手に互角以上の戦いをし、あわよくはニューチャンピオンの誕生を期待するに違いありません。
それを知っているフレアーは、敢えて自分を引き立て役になることに徹し、入場から退場シーンに至るまで地元の観客が喜ぶようなパフォーマンスを意図的に見せていたのです。
入場シーン
ピカピカ光るゴージャスなガウンを見せびらかし、不敵な薄笑みを浮かべて「イヤなヤツ」の雰囲気を醸し出しながらの入場。こうして見せることにより地元ファンの反感を意図的に買って出るあたりはさすがとしかいいようがない。
当然地元チャンピオンへの声援がヒートアップし、会場は大いに盛り上がることになる。
試合中
地元チャンピオンの攻撃を食らって前のめりにダウンし、観客にさも効いているかのような錯覚を与えるが、これはフレアーのお約束のムーブ。誰とやってもこのダウンをやっている
地元チャンピオンが攻撃しようとすると「お願いだ、やめてくれ」と言わんばかりに首を振る仕草に地元ファンは「今がチャンスだ、もっとやれ」とますます熱狂する
今まで弱々しかったフレアーが急に攻勢に転じ、不敵な薄笑みを浮かべながら必殺の足4の字固めを決めている姿に、地元ファンは更にヒートアップする
フィニッシュ
フレアーが力の差を見せつけて圧勝したのでは地元ファンが失望してしまい、次回から会場に足を運ばなくなってしまう。かといってNWA世界王者という立場上簡単に負けるわけにはいかない。そこで相手の良さを十分に引き出させておいてから意図的に反則や引き分けに持ち込み、地元チャンピオンが世界チャンピオン相手に一歩も引けを取らなかったことを印象づける。
北朝鮮で行われた「平和の祭典」での猪木戦のように次はあるかどうかわからないような大会では、白黒はっきりした決着をつけて観客をスッキリさせるあたりはさすがだ。
退場
フレアーが息も絶え絶えに退場する光景を目の当たりにして、地元ファンは次回フレアーがこのリングに上がったときは地元チャンピオンが勝つであろうことを確信し、それを目当てに次回も会場に足を運ぶというわけだ。
さすがフレアー、入場から試合後まですべてを計算し尽くしていると言っても決して過言ではない。
まとめ
こうして見ると、リックフレアーというレスラーがいかに観客の心理と、そしてビジネスの本質を熟知していたかが伺えます。
そんなことも知らずに単に「イヤなヤツ」とか「どう見ても強そうにないヤツ」ぐらいしか見ていなかった自分がなんと浅はかだったことか・・・・・
年齢を重ねた今、リックフレアーの奥深さに驚かされ、そしてたまらなく昔の映像をみたくなる衝動に駆られるのでした。
リックフレアー、おそるべし・・・・・